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温泉地には、ほのかな色香がお似合いです。
それは今も昔も変わらない、日本的な情緒のような気がします。

たとえば大正の絵師、竹久夢路の画に登場する、
どことなく病んだような浴衣姿の女性像が
湯治場の湿った湯けむりと重なって見えるのは
私だけではないと思います。






そんな日本的なウェット感を
うまく表現してくれるレンズといえば、
柔らかな描写に長けたフランスの名玉、
アンジェニューをおいて他にありません。
……なんて決めつけたら怒られますか?

『世界のライカレンズ』の著者、
日比野和範さんもこんなふうに書いています。

「パリの歴史ある街なみを写すと
おちついた色調のパリを記録できるに違いないと思ったりもするが、
この色調こそが、もしかしたら日本情緒を写すのによいかも
と思わせてしまう魔物が住み着いているレンズであった」
(『写真工業』6/2003)





アンジェニューに対して
およそ誰もが抱くであろう"ウェット感"は、
全体に沈んだ柔らかな色調とは裏腹に、
そのなかから浮かび上がる赤色系の鮮やかさに
源があるのかもしれません。
アンジェニューの赤には、
少なくともツァイスレンズの、
こってりとした赤とはまた異なる情念を感じます。

土の色は赤色系のバリエーションですから、
地面を撮っても情念が宿ります。
緑色は赤と補色関係にありますから、
赤の被写体と対峙した途端に冴えわたるのも
アンジェニューの特徴です。

個性豊かな役者が揃った舞台のように、
穏やかな調和のなかから
それぞれのキャラが立ち上がってくる様は、
ファインダーを覗いているだけでも心地よいものです。







──2009年3月、春の兆しが
私たちを湯の街へと誘ってくれました。
おもな撮影地は湯河原と熱海。
2泊3日の慰安を共にしてくれたアンジェニューは、
M42に改造したばかりの50mmF3.5と35mmF2.5。

50mmにはもともと周辺光量落ちが見られましたので、
35mmの方にちょっと深めのフードをつけることで
四隅にあえてケラレを作り、
同じような光量落ちを演出してみました。

被写体によっては
四隅に濃淡の変化が現れるだけで、
現実から遠い世界、
あたかも夢の中にいるような気分を表してくれます。




あの日、演じた夢芝居……
あれから2年半の月日を経て
ようやく夢と現実の整理がつきました。

時効を前提に、夢うつつの日々をご笑覧ください。




2011.08.10
NOCTO店長 岡村


エキザクタ用アンジェニューのM42改造(リング式)★Exakta P.Angenieux→M42マウント
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【撮影情報】
全てのカットは絞り優先モード、
ピクチャースタイルはスタンダード、
ホワイトバランスはAWBに設定。
ISO感度と絞り値、露出補正を
適宜変更して撮影。

●使用レンズ:
M42改造Kodak Retinette P.Angenieux 50mm F3.5、
M42改造Exakta P.Angenieux 35mm F2.5+広角用市販フード
※市販フードを取り付けるために、アンジェニュー35mmF2.5用
ステップアップリングをご用意しております。詳しくは≪こちら≫

●カメラ本体
Canon EOS 5D+M42-EOSマウントアダプター(電子チップ後付改造品)